絵画農場ディスカッション vol.67 「 深川美貴の作品をめぐって 」
2016 年 6 月 28 日 ( 火 )
今回のディスカッションは短期大学部美術分野洋画2回生の深川美貴さんの展覧会「
Form 」を巡って開催された。
深川さんが発表した作品は S100 号の大きな作品1点、円状のシェイプドキャンバス(直径93cm)1点、F20 号の作品 6 点、立体作品1点である。
キャンバスに油彩で描いている S100 号の大きな作品は、形に色が塗られている所と塗られていない所、線が描いてあり形は出来ているが色が塗られていない所、何かに見えそうで見えない得体の知れない形が画面に存在する。
円状のシェイプドキャンバスには大きな作品よりも形が記号化された三角、四角に色が置かれている。F20 号の 6 点の作品は円状の作品に描いている形を元に分散して 6 点に構成している。立体作品はキャンバスに描いた筆跡を切り取ったものを発泡スチロールに貼り立体作品としている。
今回のディスカッションでは、これら作品群がどう波長し合い生まれてくるのか、また画形はどのように生まれてくるのか、これらを中心にトークが繰り広げられた。
まずこの展示で一番大きな作品は何かに見えるような形とこれから形が生まれてくる段階の中間地点にいるような形、そして色が置かれ、形がはっきり出来ている形、様々な形が組み合わさって出来ている。深川さんは形ができてくる出発点は地塗りの段階からあるという。ジェッソを塗った筆跡の形や画面に落ちた筆の毛もあえて取らずそのまま残し形のヒントとして残しておきこれらの痕跡を元に形が生まれはじめるという。色の印象からか緑色のカエルに見えたりするが深川さんは、地塗りの段階から何か少しずつ形が表れたら具体的な何かに見せようと描いているという。しかし実際に見る側からはカエルの「様なもの」にも見えるし得体の知れない生物にも見える。
ここで、この展覧会には展示していないのだが深川さんの制作の中でボンドドローイングというものがある。ボンドに色を混ぜ、乾いてきたら再び色を加え乾燥させた立体物だ。手のひらサイズよりももっと大きい、両手を広げたくらいのウネウネとしたその立体物は、ボンドとアクリル絵具の混ざり、粘度質のボンドをかき混ぜた時に出来る手 を動かした痕の深川さんの痕跡で生々しく、作家の身体により近いものが出来ていた。深川さんはこのボンドドローイングを制作しているとき、何も考えず目の前の物に集中して手を動かしているという。他者に行って欲しいくらいだと言う。自分自身とドローイングを切り離したいが、実際に出来上がる画面には深川さん自身の痕跡が残り作家の身体性を生々しく感じる。
再び大きな作品に戻るが、ボンドドローイングとこの作品にも同じことが言えるように思う。形がカエルに見えて来たなら深川さんのイメージするカエルの様なものが現れ始める。しかし深川さんの画面を見ると何かと切り離したい思いが伝わってくる。それは自分自身となのか、形そのものが持つ意味か、形に対するイメージなのか。様々な思いが伝わってくるが、地塗りの段階から現れる筆跡や筆の毛の残り。これらの偶然性に委ねる部分と、深川さん自身が持つイメージと。絶妙なバランスで保たれている。
深川さん自身、このバランスをどのように口頭で説明できるか苦戦しているようだったが、作品からそれらは感じることのでき、「形、色、線、」これらに対し課題を持たせられる展覧会だったように感じる。
( 文:短期大学部美術分野 教務助手 上野 千紗)