絵画道場ディスカッションvol.62
「ヤマダシホリの作品をめぐって」
2015年5月21日(木)
ヤマダシホリの作品をめぐるディスカッションが開催された。
アートプレイスU2にて開催中の展覧会「還ル」。今回発表された作品は食物連鎖を題材に制作したドローイングやアクリルペイントだった。
タイトルと素材が記載されたキャプションが各作品の横に設置されている以外は、会場には作品を読み解くための手掛かりはほとんど置かれていない。今回のディスカッションでは、従来のように作家が参加者へ向かって作品解説を始めるのではなく、説明の無い段階での参加者側の意見や感想を尋ねるところから会話をスタートさせた。
ディスカッションの参加者へ順々に作品についてのコメントを求めると、何名かは「作家の内面性や、その闇のようなものに対するアプローチをしている」と感じているようだった。
確かにアクリルペイントの作品では黒や暗めの緑、血液を連想させる赤を主な配色として画面が展開されており、発色は暗い。 また、ペンによるドローイングの作品では、黒く細い波状の線が密集して画面を覆い尽くす中に、力なく人体が横たわっている様子が描かれている。
しかし、その他の来場者からは「内面的な闇に迫っているかのように見える作品を意図的に作っているのではないか」という意見も伺えた。
今回の展示でヤマダシホリは、生物の身体がより微細な生物に分解されてゆく寄生食物連鎖のシーンを中心に、肉体が形を変えながら大きな循環の連鎖へと「還る」様子を題材にした。
発表されたおよそ10作品のうち、アクリルペイントによる7点の連作は抽象絵画とも受け取って良いだろう。「1/7」〜「7/7」と数字のみによって題された作品は小さなものから大きなものへと順々に番号が振られ、等間隔で並べられている。目のような記号的なモチーフが登場するものもあるが、抽象的な表現が全体に主だっている。作者のコメントによると、この連作は生き物の身体が死後に微生物などに蝕まれてゆく循環の過程の様子を、7段階のイメージとして抽象画に描き起こしているのだそうだ。
( 文:短期大学部美術分野 教務助手 海野由佳 )
ヤマダシホリ展「 還ル 」は6月9日(火)まで開催しています。
次回の展示は《 シリーズ 絵画への意志 vol.63 Curtain / 一井すみれ 展 》です。絵画道場ディスカッションは6月16日(木)の16時半からを予定しています。皆様のご来場をお待ちしています。