絵画農場ディスカッション vol.68 「 柏木梨々華の作品をめぐって 」
2016 年 7月 26 日 ( 火 )

 

今回の絵画道場ディスカッションは、短期大学部洋画領域2回生 柏木梨々華の展覧会「HEDGEHOG'S DILEMMA」をめぐって開催された。



彼女が発表した作品はシャイプドキャンバスに油彩3点、ハート型の紙にドローイング40点、キャンバス 地に油彩1点である。ハート型のドローイングは日常的に制作しているもので、ハート型に切った紙をあらかじめ用意しておき、1日1枚、決めて制作していたという。ドローイングの画面には、絆創膏やレシート状の紙(彼女自身の血液検査の数値)、キスマーク、など。描かれているイメージの他に様々なメディアの情報が置かれている。一方でキャンバスは油彩のみで仕上げている。



今回のディスカッションでは、赤色の持つイメージと、描かれているモチーフについてトークが繰り広げられた。モチーフについて。彼女は幼い頃から家でホラー映画を観る機会があり、切断された手足、ハサミ、 血液、など。そういったモチーフに見慣れていたという。これらモチーフは日常生活で見慣れないものではないだろうか。そして同時に他者に恐怖感や気味の悪さを与えるのではないだろうか。しかし彼女は作品で鑑賞者に怖い思いをさせたい訳ではないという。ドローイングを描きたいと思う純粋な思いから制作をしている。彼女はそれが独りよがりな行為ではないかと制作を通じ感じ始めたそうだ。




ここで制作過程について聞いてみる。彼女は「手元のおもちゃで遊ぶ感覚」と「画面で構想している感覚」はとてもよく似ているそうだ。手元で遊ぶ感覚とはどんな感覚か。という問いに対し、ドローイングの作品で写真に切断された足に赤い色の絵具を垂らしているものがある。これは実際に小さなフィギュアに絵具を垂らし写真におさめたそうだ。また「なぜ赤色か」という質問に、様々な色を試したが、やはりどうしても一番惹かれるのは赤色だと言う。またハート型のドローイングはデザイン的に好きなのではないかという意見も出た。

幼い頃から見慣れているものは誰にでも存在しているのではないだろうか。しかし記憶の中に少しずつ埋もれて行ったり、薄まって行くのではないだろう。しかし彼女が幼い頃から見慣れていたものは現在もイメージとして存在している。なぜ赤色なのか。なぜ切り取られた手足なのか。イメージに対しての問いは彼女自身が深く考えている事が強く感じ取れるトークであった。そして実際にフィギュアで絵具を垂らし、遊ぶ感覚は彼女の言う独りよがりな意味と近しいものの様に伺えるが、メディア(ドローイング、写真、油画)を通じ出てきたものは、誰か、他者に見てもらいたいという強い意志を伺えるディスカッションであった。

※タイトルの「HEDGEHOG'S DILEMMA(訳:ヤマアラシのジレンマ)」
意味:寒空にいるヤマアラシ。お互いに寄せ合って暖め合いたいが、針が刺さるので近づけないという寓話に由来する。実際のヤマアラシは針のない頭部を寄せ合い暖をとり睡眠を取り合う。彼女もそのジレンマに共感しこのタイトルに決めた。


( 文:短期大学部美術分野 教務助手 上野 千紗)

16/09/28