油画クロスポイント

卒業生紹介

vol.14/八嶋 洋平さん


現在の活動状況

八嶋洋平

2008年3月に京都嵯峨芸術大学を卒業後、広島市立大学大学院博士前期課程に進学し、現在は博士後期課程に在籍中です。もともと人物を描くことに興味があり、現在は「群像表現」を造形的テーマに制作を行っています。嵯峨時代からこれまで油絵を描いてきましたが、今は油絵以外の画材にもチャレンジしているところです。
また、不安や孤独、ナルシシズムについて、自分と向き合うことを大切に考えながら制作を行っています。自らを励まし、問いながら、制作を繰り返す中で自分の内にある核に触れることができないか、その核に触れることで生まれるなにかが少しでも作品に滲み出ることを僕は望んでいます。


在学生の方へ

八嶋洋平 作品
 ミスター・ロンリー 」 240cm?360cm
パネル・キャンバス、油彩2010年

僕が伝えたいことは二つあります。ひとつは、「手を動かす」ということ。
皆さんは、自分は何を描きたいのだろうノと悶々とする日々を過ごすことはないですか。僕は学部のころも修士のころも、ずっと手を動かせない悶々とした日々を過ごしてきました。例えば、僕の群像表現は構図が非常に重要になるのですが、エスキースの段階で、人物を何人配置するか、どこにどう配置するか、人物同士の関係性はどうか、背景はどうするか、色はどうするか、と次々と考えることが出てきます。学部のころは問題点が出てくる度に手が止まり、頭の中でばかり考えてしまい、余計にわからなくなり、さらに手が止まる、という悪循環でした。悶々とした日々はとても勿体無く思える時間のようですが、その中で僕は「手を動かす」ことの大切さに気が付きました。
「手を動かす」ということは、考えを形にする上で一番重要なことです。絵を描くことは考えを形にすること。考えを形にすることは、手を動かさないと始まりません。つまり、手を動かすことが、絵を描くこと。わからなければ一度手を動かしてやってみる。それでダメならまた違う方法を考える。絵を描くことは、絵を描くことでしかわからないのです。

八嶋洋平 作品
「 レスター 」 53cm?53cm 
キャンバス・ジャッソ、ガッシュ、パステル 2011年
もうひとつは「自分が生み出した作品にまず自分が感動しないといけない」ということ。感動に始まり、感動に行き着く。制作のスタイルは人それぞれですが、多くの場合何かに感動することが制作のスタートになると思います。制作の中で感動が昇華され、その結果作品にリアリティが生まれ、そのリアリティがみる人に感動を与える。つまり絵とは、自分の内にある問題を昇華し、崇高なものにまで高めるものであると僕は考えています。
また創造する人はよく、自分の作品を通してみる人に何か感じてもらいたいと言いますが、僕は他者よりもまず自分がメワクワクモメゾクゾクモメズキズキモと心を刺激する何かしらのものを、制作した作品から感じなくてはいけないと思います。極端かもしれませんが、自分が自分の作品に感動しないと作品にリアリティをもたせることはできないと僕は考えています。自分の感覚を大切に、豊かな人間を目指して下さい。


八嶋洋平 作品
「 つまり悲しみだけのこの宿命 」 31.5cm?81.5cm 紙、鉛筆、水彩、ガッシュ2010年

受験生の方へ

八嶋洋平 作品
「 斉唱 」 200cm?230cm 
綿、レマゾール染料、ろうけつ染め 2011年

今の世の中はテレビやインターネットの情報で溢れています。僕たちは、無意識のうちにその様々なものに流されてしまっているように感じます。無意識的に情報を受け入れ、流す。このことが人間の受動的な姿勢を作ってしまってはいないでしょうか。それは只々大量の情報を受け流し、考えることをしない人間の始まりといえます。
ある言葉を紹介します。

  猫は、猫とは何かと考えない。
  猿とはなんぞや?、と疑っている猿はいない。
  人間だけが、人間とは何かを考える。
  人間だけが、自分が人間であることを確認することができる。
  これは素晴らしいことだ。どれほど素晴らしいことか!

「考える」ということは我々人間のひとつの大きな特徴だと思います。広くは人間とは何か。また自分とは何か。芸術を通してそれを考えると否応なく自分と向き合うことになります。これは今の時代だからこそ重要です。
芸術は、喜びや苦しみといった人間の深い豊かさに気付かせてくれます。僕は芸術に出会えたことで、少しずつではあるけれども自分を受け入れることができるようになりました。人はみな何かしらの問題を抱えながら生きています。その問題を昇華するには自分の内から外に解放することが有効だと僕は考えています。芸術は将来的な不安と隣り合わせではあるけれども、一生のうちに一回でも熱心に芸術に触れ、表現する機会が有るのと無いのとでは、その後の生き方に大きな違いがあるのではないでしょうか。僕は、芸術を通して自分を表現することは大切なことであり、生きる上で必要なことであると信じています。


この記事は2012年12月時点のものです。


12/12/18

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