「鑑賞教育についての私見」 千葉県立佐倉南高等学校 教諭 大竹英志 (2008年6月8日)
造形作品の制作と鑑賞
制作と鑑賞は美術文化の双翼です。制作と鑑賞が揃う事によって生きた文化になると考えます。
鑑賞とはルノアールやピカソなど評価が定まった過去の作品を見る事だけではなく、現在作られている作品を見て楽しむ事も鑑賞です。現在進行形の作品を見て、自分の感性で楽しむところに生きた文化があると言えるのではないでしょうか。
美術教育の役割
美術教育は制作に片寄っていると思います。私も初任から作品作りの授業ばかりを行ってきましたが、見る側を育てる必要性も感じていました。最近の実践から、鑑賞教育において知識や教養を教える事を第一にするのではなく、生徒自身が自分の感性で作品を受け止め、見る楽しさを経験させる事こそ第一にすべきであると考えるようになりました。見る側を育てる事も美術教育の大切な役割なのではないでしょうか。
作品の価値
ニューヨークで開かれたオークションで日本の現代美術作家の作品が約16億円で落札されました。16億円に相当する価値は何なのか考えるとわからなくなってしまいます。造形作品の存在価値は見る事にあると思います。造形作品に向ける眼差しは西洋人と日本人とでは違うような気がします。日本国内に於いて、作品を作る人と見る人が生きた文化をつくり、その中で作品の価値を見出していく状況があっても良いのではないでしょうか。
川村記念美術館 の取り組み(美術教育サポート)
川村美術館にて
川村記念美術館では10年ほど前から、アメリカの学者アメリア・アレナス氏の指導の下、鑑賞者が美術の知識教養にとらわれずに、作品と直接コミュニケーションをする対話型ギャラリートークを小中学生対象に行っています。私は2003年3月にこの取り組みと出会い、佐倉南高校が高等学校として初めて参加することになりました。
私の鑑賞教育の試み
2004年度から川村記念美術館の対話型ギャラリートークを授業に取り入れ、授業日課の中で川村記念美術館に行っています。現在勤務している佐倉南高校が川村記念美術館から最も近い高等学校である事と美術の授業が2時間続きなので継続実施できています。教育効果を上げるためには各クラス年1回は美術館に行き、本物を見せる必要性があります。
2005年度から川村記念美術館の美術教育サポート以外でも、パワーポイントを使い鑑賞の授業を行っています。1クラスにつき年間約10回行い、教科書や画集に載っている作品の他、知人友人の作品やDVDも使い、現在進行形の作品を多く見せるようにしています。
2007年度、知人友人の作品を使った鑑賞の授業で感想を書かせ、それを作者に送ってみました。その反応は意外なほど良く、作者全員が喜び生徒の感想文に感激してくれました。この事から、生徒たちが如何にうまく作品とコミュニケーションしているかがわかります。
このような授業から見る側が育ち、作り手と見る側が一緒になった、渦巻くような生きた美術文化の状況が誕生することを願っています。
アトリエの大竹英志先生
10/06/15