絵画道場ディスカッションvol.60「甫立夏希の作品をめぐって」
2014年11月19日(水)
甫立夏希の作品を巡るディスカッションが展示会場のアートプレイスU2にて開催されました。
会場には油彩で描かれた作品8点が並んでいました。彼女の作品独特の柔らかな色調が鑑賞者を囲みます。
「錐台」(すいだい)と題された展覧会ですが、描かれているモチーフは家の中の風景であったり、人体の一部であったりと様々です。画面上には、パースの「ゆがみ」による、どこか興味深い空間が展開されています。
会場全体を眺める形で座席が配置され、ディスカッションがスタートしました。
今回は作家 甫立夏希と、彼女の制作を日頃より親身に指導している、非常勤講師の筧有子先生との対談形式です。
甫立さんは絵画を制作・鑑賞する視点での基準について考えているようでした。
彼女の作品は一見すると、各モチーフを写実的に描いたもののように見えますが、精密にパースの取られた絵を完成目標としているのではありません。
「 私の目では、実物を目の前にするとどう見ても歪んで見えていて、物を見ながら描くと、作品のパースもゆがむ」のだと彼女は言います。
写真を参考に見ながら制作をする作家もたくさん居ますが、甫立さんは実物を自分の目で見て描く事にこだわりを持っています。
多くの美術大学生は、デッサンなどの「物をよく見て写実する」という訓練の過程を経ています。彼女もデッサンの指導を受けた経験があり、その際に、自分の目に映る物のゆがみと、パースをきっちり測って構成するデッサンとの違いに違和感を覚えていたのだそうです。
展覧会名の「錐台」は、甫立さんがその当時描いたデッサンでモチーフにしていた立体の名前です。
「パースや形を決めて、その通りに描く」という事や「技法通りだから良い」という価値観への大きな疑問が、彼女の画面作りの根底にあるように思えました。
ディスカッションでは、「この絵は良い絵だ」と感じる時の基準など、来場者それぞれの価値観についても意見交換がされました。
「見た時に、 何か良い絵だな というふうに思われたい。簡単に納得して欲しくないというか、良い絵だと思ってから、その後でその理由を考えるような。」と彼女は言います。
今年度の絵画道場はこれで開催を全て修了致します。会場に足をお運び下さいました皆様、有り難うございました。
来年度は4月より開催予定です。宜しくお願い致します。
(文:短期大学部 美術分野 教務助手 海野 由佳)